本編より抜粋。
「あのボンネットに描かれているのは、オオカミの姿をした神獣、フェンリルよ」
「フェンリル?」
たくみが頭のてっぺんから声を出す。
「北欧神話に登場するフェンリルは、ラグナロクにおいて最高神オーディンをその口で飲み込んだと伝えられている」
「だ、だからなんだってんだ!」
「その時は」
不意に、美香の目に鋭い光が走る。《バーサス》越しに伝わるほどの気迫。緊張がピットを支配した。
「……じっとしている方がいいわ。それじゃ、お互い全力で頑張りましょう」
差し出された美香の手を握り返そうとするが、あゆみの手はすり抜けてしまう。《バーサス》はあくまでミニ四駆の走行性能を実際のサーキットでシミュレーションするためのもので、その他の機能は補助でしかない。プレーヤー同士の通信も同様である。
スタートが近いことを告げるホーンがなると、美香の姿はノイズの中に消えた。
「あいつ……」
あゆみが握ったこぶしの中には、じっとりとイヤな汗が満ちていた。
…中二病です(汗)。